レディースホームFAQL.卵巣に関するもの編

3.卵巣嚢腫ってどういう病気ですか?

 

卵巣嚢腫とは


 「卵巣嚢腫とはどんなものか」を簡単に理解しようとするならば、「卵巣に液状成分が溜まって腫れている状態のこと」であると捉えておくと良いでしょう。
 卵巣には実に多種多様の腫瘍が発生することが知られており、そのため過去に様々な分類法がなされてきましたが、その中で経験的に「嚢胞状を呈するものには悪性のものはほとんどない」ということが知られていました。これに加えて、ホルモンの影響などにより発生する非腫瘍性病変もすべて嚢胞状を呈するということもあって、「嚢胞状の腫瘤=悪性の心配はない」と解釈して良いだろうと考えられてきました。このことから、これら「嚢胞状を呈する腫瘤」、すなわち液状成分が溜まって腫れている状態というのはひとくくりにして考えて良いのではないかということになり、これらをまとめて「卵巣嚢腫 ovarian cystoma」と呼ぶようになったものと考えて良いでしょう。
 ところで、非腫瘍性病変による場合というのは、ホルモンの影響などが原因で卵巣内に液状成分が貯留するものであり、たいていは球形・袋状になった外壁とその中に貯留した液状成分で構成されるものです。このような腫瘤は嚢胞 cyst と呼ばれます。
 これに対して腫瘍性病変による場合では、外壁を構成する細胞には腫瘍性の増殖(=自律的増殖、つまり勝手にどんどん大きくなるという性質)が認められるという点、そしてその内容は外壁を構成する腫瘍細胞から分泌されて貯留する液状成分であるという点が異なり、このような腫瘤は嚢腫 cystic tumorと呼ばれます。
 したがって、卵巣嚢腫というのは ovarian cystic tumor、すなわち腫瘍性病変である嚢腫(=ほぼ卵巣の良性腫瘍と考えて良いです)のことのみを指す言葉であって、非腫瘍性病変(=卵巣嚢胞 ovarian cyst)は含まないというのが本来の定義でした。しかし、現状では先述のような理由から非腫瘍性病変・良性腫瘍のいずれをも含めて指す言葉として用いられているのが一般的であると考えた方が良いようです。
 単に言葉の定義上の問題ではあるのですが・・・
 しかし、以上のような背景があるために、卵巣嚢腫という言葉は一般的には非腫瘍性病変を含む嚢胞性腫瘤全般を指して使われているのですが、時として本来の意味である腫瘍性病変に限った嚢胞性腫瘤のみを指す言葉としても使われることがあるので、どちらの意味で使われているのかということには注意が必要かもしれません。
 またさらに、卵巣嚢腫のことを ovarian cyst と呼ぶこともあってしかもこれがけっこう一般的だったりもしますから、混乱ここに極まれりというところでしょうか。

 

卵巣嚢腫の種類


  お話ししましたように、卵巣嚢腫とは卵巣にできる非腫瘍性病変と良性の腫瘍とをあわせた嚢胞性腫瘤全般を指して使われていることが多いので、ここではその両方についてをお話ししておきます。

 

 ●非腫瘍性病変
   最初に非腫瘍性病変に関してですが、これには以下のようなものが含まれます。
    1. 卵胞嚢胞 follicle cyst
       卵胞内に分泌物が貯留したもので、 壁面は顆粒膜細胞で構成されるか、あるいは剥脱消失してしまっているかのどちらかである場合が多い。LH、FSHの不均衡により形成されるものと考えられており、自然に消失してしまう場合も多く見られるが、かなり大きくなった場合には手術摘出が必要となる。
    2. 黄体嚢胞 corpus luteum cyst
       排卵に伴って出血が起こり、一時的に黄体内に血液が貯留するが、通常はこの貯留血液は黄体細胞によって吸収される。この貯留した血液量が多い場合には吸収しきれずに残存して黄体血腫となり、さらに内容が血性透明になって嚢胞化してしまい、黄体嚢胞と呼ばれるものとなる。
       通常は次第に吸収され自然に消失するものであるが、時に外傷、性交、運動などが誘因となって排卵による出血が止血されない、または黄体血腫あるいは嚢胞が破裂する、という現象が起こり、腹腔内に大量に出血を来す場合がある。このようなケースでは急激に腹痛を起こし、時に吐き気や嘔吐を伴い、場合によってはショック状態に陥ることさえあるために子宮外妊娠と誤認される場合もある。したがって、救急車で運ばれることもしばしばである。
       このようなケースは卵巣出血 ovarian bleeding とも呼ばれ、緊急手術を要することもまれではない。
    3. ルテイン嚢胞 lutein cyst
       妊娠初期あるいは絨毛性疾患において、絨毛から分泌される絨毛性ゴナドトロピン(HCG; Human Chorionic Gonadotropin )の卵巣に対する過剰刺激が原因で発生する。内容は黄色透明の液状成分であり、妊娠の場合は妊娠中期に至ることで、絨毛性疾患の場合は腫瘍を摘出等により治療することで、自然に治癒する。
       なお、詳細は「妊娠初期ですが卵巣が腫れているといわれました」を参照。
    4. チョコレート嚢胞 chocolate cyst
       これについては「チョコレート嚢腫ってなんですか?」を参照。
    5. 多嚢胞性卵巣 polycystic ovary (PCO)
       これについては「PCOってどういうものでしょうか?」を参照。
 ●腫瘍性病変
   次に、良性の卵巣腫瘍に関してお話しします。 
  現在卵巣の良性腫瘍は以下のように分類されています。
 
表層上皮性・間質性腫瘍
漿液性嚢胞腺腫
粘液性嚢胞腺腫
類内膜腺腫
明細胞腺腫
腺線維腫(上記の各型)
表在性乳頭腫
ブレンナー腫瘍
性索間質性腫瘍
莢膜(きょうまく)細胞腫
線維腫
硬膜性間質性腫瘍
セルトリ・間質性細胞腫瘍
ライディク細胞腫(門細胞腫)
輪状細管を伴う性索腫瘍
胚細胞性腫瘍
成熟嚢胞性奇形腫(皮様嚢腫)
成熟充実性奇形腫
卵巣甲状腺腫

 
 以上は、1990年に日本産婦人科学会と日本病理学会により定められた分類で、WHO分類に準拠した組織学的分類であることが特徴です。良性腫瘍だけでこれだけの種類があることは驚きですが、しかし実際にはこのうちのほとんどの腫瘍が発生すること自体まれであり、良性腫瘍のほとんどが以下の腫瘍で占められていると言っても過言ではないでしょう。
 すなわち、
 1) 漿液性嚢胞腺腫(Serous cystadenoma)
 2) 粘液性嚢胞腺腫(Mucinous cystadenoma)
 3)成熟嚢胞性奇形腫(Mature cystic teratoma)
 の三種類の腫瘍です。
 これらはいずれも嚢胞状を呈する腫瘍であり、このため最初にお話ししたように「良性腫瘍ほぼイコール嚢胞性腫瘍」、ということになるわけです。

 よって、ここではこの代表的な三種類の腫瘍に絞ってお話しをすることにします。

 

 
漿液性嚢胞腺腫
 
   通常は単房性であるが、時に多房性のことがある。嚢腫壁は表面平滑であるが時に内腔へ乳頭状の増殖を示す場合があり、乳頭状嚢胞腺腫と呼ばれる。乳頭状増殖を示す場合は境界悪性のもの・悪性のものとの鑑別が重要となる。内容は黄色透明の水様液で、時に血性様のこともある。卵巣嚢腫の中で最も頻度の高い腫瘍である。
 単房性のものでは、その形態や内容が非腫瘍性病変と非常に良く似かよっているために、鑑別が難しい場合が多い。とはいえ非腫瘍性病変では手拳大以上の大きさになることはまれであるため、かなり大きくなったものであれば鑑別は容易となる。
 
粘液性嚢胞腺腫
 
   通常は多房性を示し、放置するとかなり巨大なものとなることが多い。嚢腫壁はやはり表面平滑で、内容は粘稠性の高い粘液様物質で、白色〜黄色〜褐色を示すことが多い。しばしば両側性に発生する。多房性の一部が漿液性の場合もある。
 比較的まれなケースとして、自然破裂を起こすことで腹腔内に粘液が散乱し、粘液に混じって産婦された腫瘍細胞が原因となり腹腔内臓器に癒着や組織破壊を起こすことがあり、このような状態となった場合を腹膜偽粘液腫 pseudomyxoma peritonei と称する。高齢者に多く、組織的に悪性像を認めないものの非常に予後は悪い。
 
成熟嚢胞性奇形腫
 
   全卵巣腫瘍の18%を占め、若年層における卵巣嚢腫の中では最も多いものである。成熟期から高齢期にかけても見られるが、若年期〜成熟期ではまず癌性変化を起こすことはないのに対し、高齢期では少ないながらも癌性変化が認められる場合がある。
 胎生期の内、中、外の3胚葉組織から形成される成熟組織がその構成成分であり、したがって各種臓器を模した内容が認められる。そのうち、外胚葉に由来する毛髪、皮下脂肪、皮脂、皮膚組織などを中心に、中胚葉由来である骨、軟骨、歯牙などを交えた形の腫瘍が最も多く見られ、類皮嚢胞腫または皮様嚢腫(Dermoid cyst)デルモイドなどと呼ばれる。
 約25%が両側性に発生する。
 腫瘍マーカーのうち、CA19-9が高値を示すケースがしばしば認められ、診断する上で有用なものである。
 無症状に経過することもまれではなく、妊娠の判明と同時に発見されたり、茎捻転を起こして初めて発見されることもかなり多く見られる。 茎捻転を起こした場合は組織壊死に陥っていることが多いため片側卵巣は全摘出するケースが多いが、そうでない場合には嚢腫部分のみを摘出する手術法(嚢腫核出術)をとることが多い。
 開腹手術を行うのが一般的であるが、腹腔鏡下に核出術を行うことも可能である。(→腹腔鏡手術に関してはこちらを参照)

 

 
画像診断
 
   以下に腫瘍性病変に関しての画像診断の例をあげておきます。
 詳細は述べませんが、このような違いがあるんだな、程度に理解をしておいてもらうと良いと思います。

 

 

 

■関連するリンク
 ・卵巣嚢腫の茎捻転 → 「茎捻転ってどういうものですか?」
 ・妊娠中の卵巣の腫れ → 「妊娠初期ですが、卵巣が腫れていると言われました。」
 ・排卵誘発中の卵巣の腫れ → 「OHSSって何ですか? 」
 ・チョコレート嚢腫 → チョコレート嚢腫って何ですか?
 ・腹腔鏡について → 腹腔鏡について教えてください