レディースホームFAQI.妊娠中の異常について

9.妊娠初期に薬を飲んだ・X線を浴びたけれど大丈夫?

 

     ○妊娠期間と胎児の発育について
     ○薬の服用の影響
     ○レントゲンの影響

 

○妊娠期間と胎児の発育について

 妊娠中にお薬を服用したり、レントゲンを浴びたりするのは危険だということは、恐らく誰もが考えていることだろうと思います。ではいったい、いつ頃にどの程度のお薬を飲んだりレントゲンを浴びたりすると危険なのでしょうか。また、いったいどのような危険があるのでしょうか。
  それを知る前に、まず今自分が妊娠何週くらいにあるのかということをなるべく正確に知っておかなければなりません。それによって、いま赤ちゃんがどのくらいの発育時期にあるのかがわかりますしまた影響があるとするとどのような影響が現れてくるのかを推察することも可能となってきます。
 ですからまず、自分が妊娠何週何日くらいに当たるのかをまずきちんと把握しておきましょう。
  (→妊娠週数については「8.妊娠週数について教えて下さい」に記載があります。)

 では、妊娠週数がはっきりしたものとしてお話しを進めましょう。
 妊娠は排卵直後、精子と卵子が受精することによって始まりますが、妊娠週数の数え方からいくと排卵日は2週0日に相当しますから、胎児に影響があるとすれば妊娠2週以降ということになります。
 以下に、妊娠2週以降の胎児の発育状況をイラストで示します。

 このイラストを見てわかることは、重要な器官の形成はおおよそ妊娠4週以降16週以内に集中している、ということです。つまり、薬やレントゲンによる影響が最も現れやすいのはこの期間であると考えて良い、ということですね。妊娠月数で言えば、妊娠2ヶ月から妊娠4ヶ月以内ということになります。
 このうちで、サリドマイド児の経験から排卵(受精)後19日から37日(妊娠週数では4週5日から7週2日に相当)は、薬剤に対して催奇形性という意味で特に敏感になる時期であることが判明しており、この期間を絶対感受(過敏)期と呼ぶこともあります。

 

○薬の服用の影響

 1961年、日本とドイツで発売されたバルビツール系催眠剤サリドマイドにより、フォコメリアという、手足が短縮あるいは欠如した奇形児が発生し問題となって以降、薬剤投与による催奇形性が問題視されるようになりましたが、ではいま現在、実際にお医者さんから投与を受けている薬、あるいは市販されている風邪薬などの影響はいったいどうなのでしょうか?妊娠初期に風邪薬を飲んだ場合、中絶の必要があるのでしょうか?

 1.服用時期と胎児への影響

 服用した薬剤が胎児へどのような影響を及ぼすかは、服用した時期によって異なります。
先のイラストを参照にしてもらうとわかるものと思いますが、器官形成期と呼ばれる妊娠4週頃から妊娠15週頃までは胎児へ奇形を起こす可能性があることから、この時期は催奇形性という形で影響を及ぼします。
 それ以降、妊娠末期までは胎児に奇形を起こすことはほとんどなくなりますが、その代わりに胎児に対して悪影響を及ぼす可能性があり(例えばアスピリンは妊娠後半期の大量投与で動脈管の収縮作用が起こることが知られています)、この時期は胎児毒性という形で影響を及ぼすことになります。
 妊娠4週以前については、服用した薬剤が胎児に影響を及ぼしたとしても胎児は育たずに流産という形になると考えられているため問題にはならないものです。

 さて以上のことから上のイラストの「B」と「C」の時期が最も薬剤の影響が心配される時期であることがおわかりになったものと思いますが、では催奇形性があるというのはいったいどの程度の危険性があるものなのでしょうか?
 一般的に、自然に奇形児が出生する確率は1%、すなわち100人に1人は奇形児を出産する可能性があると考えられており、出生後に精神発育遅滞などで明らかになる異常が2〜3%、合わせて3〜4%程度の自然発生があるものと考えられています。これに対して、「催奇形性の報告がある」ため「妊婦へは投与しないこと」と記載されている薬のほとんどは、実はこの奇形発生率を1〜2%程度上昇させるに過ぎないものなのです。
 このことは、最も胎児に対して危険な時期(=先述の絶対過敏期)に「催奇形性の報告がある」薬剤を長期に服用した人の統計データによっても証明されていることで、あの問題となったサリドマイドでさえ、妊娠初期の服用によって発生した奇形児の発生率は20〜30%程度であるといわれていることを考えると、「催奇形性がある」=「かなり奇形児が生まれる確率が高くなる」ということではないのだと考えて良い、ということがおわかりになるものと思います。
 動物実験で催奇形性があるといっても、「大量に投与」した場合に奇形が発生したケースがほとんどであること、動物実験の結果が必ずしも人間には当てはまらないということが、この結果となって現れているものと考えられますが、いずれにしろ「催奇形性」についてはこのように、「奇形発生率が1〜2%上昇する程度である」と捉えておいて良いものと考えられます。

 2.薬剤の種類と催奇形性

●総合感冒薬

 通常の使用量を守って服用している限り、催奇形性が高くなる心配はほとんどないといって良いでしょう。すなわち、人工妊娠中絶の適応となることはまずないと考えて良いと言えます。しかし、すべての含有成分を同じと考えて良いわけではなく、比較的安全に使用できるものからあまり使用しない方が良いものまであることは知っておくと良いかもしれません。
 以下に、市販されている風邪薬の主要成分についてをまとめておきます。

 
比較的安全に使用可能
使用に当たって注意を要する
投与しない方が良い
消炎鎮痛作用 アセトアミノフェン、塩化リゾチーム、 アスピリン、インドメサシン、ケトプロフェン、ジクロフェナク、メフェナム酸、ロキソプロフェン、プラノプロフェン、エテンザミド、サザピリン イブプロフェン、スルピリン、ミグレニン、チアプロフェン、ピロキシカム、スリンダク、ナプロキセン、オキサプロジン、アンチピリン、イソプロピルアンチピリン
抗ヒスタミン(抗アレルギー)作用 クロルフェニラミン、クレマスチン、メクリジン ヒドロキシジン ジフェンヒドラミン、塩酸ジフェニルピラリン、アリメマジン、プロメタジン、ホモクロルシクリジン、メキタジン
気管支拡張作用 硫酸サルブタモール、塩酸クレンブテロール、塩酸クロルプレナリン、臭化水素酸フェノテロール、テオフィリン、アミノフィリン、塩酸メチルエフェドリン 硫酸テルブタリン  
鎮咳去痰作用 アンブロキソール、塩酸ブロムヘキシン、クエン酸カルベタペンタン、臭化水素酸デキストロメトルファン、リン酸ジメモルファン、リン酸ベンプロペリン、グアイフェネシン リン酸コデイン  
ビタミン剤

ビタミンB1、B2、B6、B12、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンK、ニコチン酸、葉酸

ビタミンD ビタミンA
その他 無水カフェイン、トラネキサム酸、 塩酸フェニルプロパノールアミン  

 上記のうち、「投与しない方が良い」成分が含まれる薬を知らないで飲んでしまったとしても、これは妊娠が判明してからは「服用しない方が良い」と考えられるものであって、万が一服用後に妊娠がわかったとしても先述のように人工妊娠中絶の適応となるほど催奇形性が高くなるわけではないと考えて下さい。
 ある大学のデータですが、妊娠と知らずに風邪薬を服用してしまった妊婦のデータを取ったところ、最も奇形を起こす可能性の高い時期に服用していた妊婦にでさえ、一人も奇形児の出生がなかったと報告されています。案ずるより産むが易し、といったところでしょうか。

●鎮痛剤

 生理痛で服用していることが多いため、妊娠していると知らずに鎮痛剤を服用してしまう場合も多いようです。
 鎮痛剤についても代表的なものを表に示しますので、参考にして下さい。

 
比較的安全に使用可能
使用に当たって注意を要する
投与しない方が良い
病院で処方
ピリナジン、カロナール、アンヒバ、アルピニー アスピリン、バファリン、インダシン、インテバン、メナミン、カピステン、ボルタレン、ナポール、ナパノール、アンフェット、ニフラン、ポンタール、ロキソニン、オルジス、ソランタール メチロン、ミグレニン、イブプロフェン、スルガム、ブルフェン、ナパセチン、フェルデン、バキソ、アルボ、アクリチン、ナイキサン、クリノリル
市販薬
グランドール、ノーシン発泡錠、小児用バファリンC サリドンA、サリドンエース、新セデス、セデスハイ、ノーシンホワイト、バファリンA、アルカセルツァー、ケロリン、エキセドリン、ハッキリエース イブA、ナロンエース

 スルピリン(メチロン)、ミグレニン、イブプロフェンなどは動物実験で催奇形性が報告されていますが、いずれもヒトで常用量を使用する分においては否定的であるという報告が多いようです。この項の最初にも触れたように、催奇形性が高くなるとしても1〜3%程度と考えて良いでしょう。

●その他の薬

 代表的なのは抗てんかん薬でしょう。
 抗てんかん薬には明らかにヒトでの催奇形性が認められているものが多く、多剤併用によって、また使用する薬剤の増量によって危険度が増加することが知られています。抗てんかん薬服用による奇形発生率は、自然奇形発生率(3〜4%)の2〜3倍であると言われており、ある統計では妊娠初期に抗てんかん薬を服用した妊婦の奇形発生率は11.1%であったと報告されています。
 てんかん薬を服用したまま妊娠を希望する場合は、カウンセリングを十分に受けた上で奇形発生の頻度の少ない薬剤に変更し、また量・種類ともに減らすように考えてもらうことが大事であると言えるでしょう。

 催眠剤、睡眠導入剤ではベンゾジアゼピン系化合物が最も広く用いられています。代表的な薬は下に挙げたとおりですが。これらの薬剤では動物実験で催奇形性の報告はされていないものの、口蓋裂や口唇裂の発生が多くなるという報告もあるため注意を要します。やむを得ない場合を除いて使用を控えるべきであると言えますが、催奇形性を否定する報告もあり結論は闇の中です。
 セルシン、ホリゾン、セレナミン、ハイロング、ソラナックス、コンスタン、デパス、セレナール、セパゾン、エナデール、リーゼ、メンドン、コントール、バランス、エリスパン、コレミナール、レスタス、レキソタン、メイラックス、ワイパックス、レスミット、ハルシオン、ネルボン、ベンザリン、サイレース、レンドルミン等

 精神分裂病やてんかんに対し使用するフェノチアジン系やブチロフェノン系の薬剤はメジャートランキライザーと呼ばれますが、これらの薬剤は動物実験で催奇形性の報告があるものもありますがヒトでは催奇形性は報告されてはいません。以下のような薬剤がこれに該当します。
 ウインタミン、コントミン、セファルミン、メレリル、ノバミン、プシトミン、レボトミン、ヒルナミン、セレネース、アタラックス、ルジオミール等

 副腎皮質ステロイド剤もしばしば妊娠初期に服用されることがありますが、一般的にはプレドニゾロンで1日50mgくらいまでなら安全と考えられています。動物実験では催奇形性の報告がありますが、ヒトでの報告はないため催奇形性については疑問視する見方が大勢を占めています。

 3.男性側の薬剤の服用

 理論的には、薬剤が精子に影響すると受精能力を失うか、受精してもその卵は育たなかったり着床しても流産に至るものと考えられますから、催奇形性の問題は考えなくて良いものです。以前はコルヒチン(痛風に使用する薬)のように「父親が本剤を服用した場合、その配偶者から、ダウン症候群及びその他の先天異常児の出生の可能性が報告」されているものもありましたが、最近はこれらについても否定的な意見が多いようです。

 

 

○レントゲンの影響

 妊娠に気がつかないで胸部や腹部のX線検査を受けたりCT検査を受けたりした場合はどうでしょうか。
 結論から言えば、医療被曝による胎児奇形の心配は、よほど特別な場合を除いてないものと言えます。

 胎児の被爆の程度は、胎児側の放射線の吸収線量として表すのがもっとも適当であり、これを表す単位としてGy(グレイ)を用いるのが適当です。一般的には放射線量を表す単位としてSv(シーベルト)が用いられますが、これは母胎に被爆する放射線量を表すには適当といえます(=母胎、患者自身の発がんの危険性に主眼をおいたものとも言い換えられます)が、胎児被爆を表すためにはあまり適当なものではありません。よって、以下ではすべてGy単位で記載することにします。

 胎児の奇形等に関しては、薬を服用した場合と同じく「放射線を被曝した日」が問題となります。
 これについては、最初にあげたイラスト(妊娠週数と器官形成)を参考にして下さい。
 ただし、放射線被曝による胎児への影響としては、妊娠8週以降では薬物の影響は少なくなるのに対して、放射線は精神遅滞として発生する可能性がある点が異なるものと言えます。妊娠8週以内では、胎児に奇形を起こす可能性があること、ごく初期では流産に至る可能性があることについては薬物による影響と同様と考えて良いでしょう。
 妊婦が放射線に被曝した場合、胎児へ奇形等の影響を発生する放射線量の最低ライン(「しきい値」と呼ばれます)は100mGy〜200mGyであると考えられています。(国際放射線防護委員会;ICRPによる)これに対して、医療目的の検査による胎児の被爆量はおおよそ以下の通りです。(1回の検査につき)

検査方法と平均線量(mGy)
 
検査方法と平均線量(mGy)
胸部X線単純撮影
0.01以下
  頭部CT
0.005以下
腹部X線単純撮影
1.4
  胸部CT
0.06以下
腰椎X線単純撮影
1.7
  腹部CT
8.0
上部消化管造影
1.6
  骨盤部CT
25.0
注腸造影検査
8.0
     

 以上のことからわかるように、1回の骨盤部CT検査でも100mGyを超える容量の放射線を胎児が被曝することはまずあり得ませんから、したがってこれらの検査による被爆ではまず中絶を必要とすることはありません。

 また、胎児の発がんに関しては、ICRPが胎児期の放射線被曝は成人に比べて危険性が2〜3倍高いことを示していますが、疫学的調査でも50mGy以上の被爆でないと有意な発がん率の増加は認められておらず、やはり医療目的検査による被爆量ではまず問題にはならないものと言えます。